現在の兵庫県西部から南部にあたるのが、播磨国。ここは諸説ある日本酒起源の地のひとつです。奈良時代に編纂された『播磨国風土記』には、カビを使って醸された日本酒についての最古の記述が残されています。そこには「大神のお食事(干し飯)が水に濡れてカビが生えたので、酒を醸造させて宴を開いた」とあり、大神が国づくりを終えられた際「私の神酒と同じくらいよくできた」と満足されたというエピソードも。
ここでいう「大神」は播磨国の神さま「伊和大神(いわのおおかみ)」のことで、国づくりの神さま大己貴神(おおなむちのかみ)とも同一視されています。
そんな伊和大神を祀っているのが、播磨国一宮の伊和神社(いわじんじゃ)です。
伊和神社のある兵庫県宍粟市には鉄道がありません。姫路駅からバスで約1時間の山崎バスターミナルへ行き、バスを乗り換える必要があります。バス停は神社の目の前にありますが、本数は少ないので帰りのバスの時間を確認してから参拝すると安心です。
社殿は北向きに建てられていますが、これは創建エピソードに大きな関係が。欽明天皇25年(564年)、豪族の伊和恒郷(いわつねさと)は夢のなかで、大己貴神による「我を祀れ」という御神託を受けました。目覚めると一夜にして木々が生い茂り、大きな2羽の白鶴が石の上で北向きに眠っていたので、その場所に社殿を建てたと伝えられているのです。このとき鶴が眠っていた石は「鶴石」と呼ばれ、今も大切に祀られています。
なお、前述の『播磨風土記』に登場する宴の地は庭田神社(にわたじんじゃ)です。伊和神社からも約3kmと近いので、日本酒ファンはぜひこちらの神社にも立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
世界にはさまざまな宗教があります。なかでも日本の宗教観は独特。神社にもお寺にも参拝する人が多く、神と仏が見事に共存しています。そんな神仏融合のはじまりの地が、高野山の入口にある丹生都比売神社(にうつひめじんじゃ)です。
高野山といえば弘法大師空海が開いた真言密教の聖地。修行の場所を探していた空海を高野山へ導いたのは、白と黒の犬を連れた狩人に化身した丹生都比売大神(にうつひめのおおかみ)の御子・高野御子大神(たかのみこのおおかみ)だったという伝説があります。神領の高野山を授けられたことに感謝した空海は、山上の壇上伽藍に御社(みやしろ)を建て、高野山の守護神として丹生都比売大神と高野御子大神をお祀りしました。
このエピソードにちなみ、丹生都比売神社には、白と黒の紀州犬のご神犬がいます。白いご神犬は母犬のすずひめ号、黒いご神犬はその子どもの大輝号です。
境内の鏡池にかかる立派な輪橋は、豊臣秀吉の側室として知られる淀君が寄進したと伝わるもの。大きく反ったシルエットが美しい朱塗のこの橋は、神さまが渡るための橋です。かなりの急勾配ですが、参拝者も通行できます。橋の先には中鳥居があり、その先には室町時代に建立された楼門が見えます。楼門の奥には、本殿があり、朱塗に彫刻と彩色を施した本殿が。第一殿から第四殿まで左右に並んで社殿を構え、4柱の神々をお祀りしています。一間社春日造としては国内最大級で、国の重要文化財に指定されています。
明治時代の神仏分離令以降、多くの神社とお寺がそれぞれ別の道を歩みはじめました。しかし高野山で修行をする僧侶は、現在でも修行の節目にかならず丹生都比売神社へ参拝し、祈願をこめた護摩札(密教に伝わるお札)を納めるそうです。神と仏の共存する柔軟で寛容な宗教観が、現代までしっかりと受け継がれています。