華やかで甘い香りを放ち、降り注ぐように咲く美しい藤の花。人々を魅了するだけでなく、神さまの心をも動かすようです。『古事記』には、藤の花衣をまとって恋を叶えた男神のお話があります。
むかし但馬の国に、伊豆志袁登売(いずしをとめ)という美しい女神がいました。誰もが彼女を妻にと願いましたが、彼女は誰の求婚にも応じません。そんな彼女に恋した神さま、春山之霞壮夫(はるやまのかすみをとこ)。母神に相談すると、母神は藤の葛を集めて衣や靴、弓矢を作ってくれました。春山之霞壮夫がその装束をまとって伊豆志乙女のもとを訪れると花が咲き、藤の花が春山之霞壮夫の全身を包みました。こんな春山之霞壮夫を見て、伊豆志袁登売神は求婚を受け入れました。
こんな伝説が生まれるほど、古くから愛されてきた藤。花盛りは4月下旬から5月上旬です。
神さまの恋も叶えてしまう藤の花。この花に囲まれて参拝できる神社があります。東京で藤の名所といえば亀戸天神社(かめいどてんじんじゃ)が知られていますが、赤坂にある日枝神社(ひえじんじゃ)の藤の花も見応えがあります。日本三大祭のひとつ「山王祭」で知られる日枝神社の御祭神は大山咋神(おおやまくいのかみ)。縁結びの御利益でも知られています。社殿右手には夫婦一対の神猿像があり、縁結びや子授け、安産祈願に訪れる人も少なくありません。
日枝神社の藤は「ノダフジ」という種類です。本殿そばに設置された藤棚で咲き誇ります。見頃は4月中旬から5月上旬ですが、すべての花が散ったあとで時期をずらして二度開花するので、7月頃まで花を愛でることが可能です。幻想的な紫色の花のシャワーと立ち込める甘い香りに包まれて、恋愛成就祈願をするのはいかがでしょうか。