中国では昔から、桃は邪気を祓い、不老長寿を与える植物として親しまれていました。祝い事の際に食される、桃の実をかたどった「桃饅頭」は日本でもよく知られています。
日本でも、古くから桃には邪気を祓う力があると信じられてきました。『古事記』には、黄泉の国でイザナミの追手から逃れるイザナギが桃の実を投げつけて難を逃れたというエピソードがあります。女児の健やかな成長を願う、3月3日の「ひなまつり」で、桃の花をお供えするのも、桃に邪気を祓うパワーがあると信じられていたからです。
東京・荒川区にある、平安時代創建の古社、素盞雄神社(すさのおじんじゃ)。毎年2月下旬から4月上旬にかけてたくさんの桃の花が咲き、その花をお供えとして境内各所に雛人形が飾られる「桃まつり」が開催されます。
神社創建の日と伝わる4月8日には「疫神祭(えきじんさい)」があり、このときお祓いに使われるのも桃。白い花をつけた桃の枝、桃の木片を燻した煙と香りで、四方を祓い清めるのだそうです。
4月1日〜8日には、霊木である桃の木で奉製した「白桃樹御守(桃の御守)」も授与されます。江戸時代から伝わる災厄除けのお守りで、もともとは煎じて飲むお守りだったそうです。現在では裏に名前を書き、身につけたり神棚に納めたりして身にふりかかる災厄を払うものとなっています。
素盞雄神社で桃の花を長く楽しめるのは、多種類の木があるから。まずは紅白の矢口桃が咲き始めます。続いて、源平桃や紅白の照手桃、真っ白な花を咲かせる残雪桃に、鮮やかなピンク色の花を咲かせる遅咲きの菊桃まで、次々と開花。たくさんの桃の花が、春の参拝者の目を楽しませています。