清少納言が『枕草子』で、「いとおかし」とその色彩を讃えたリンドウの花。紫式部が『源氏物語』の「野分」で、「とりわき植えたもう竜胆(りんどう)」と綴っていることから、平安時代にはすでに栽培もされるほど愛されていたようです。
きれいな薄紫色は「竜胆色」と名付けられ、平安貴族の衣装にも好んで使われていました。色だけでなく文様も人気で、衣装のほか調度品にもあしらわれていたようです。
ちなみにリンドウを漢字で「竜胆」と書くのは、中国での呼び名によるもの。中国では古くから薬草として用いられていたのですが、その味が「熊のキモよりもさらに苦い、まるで竜のキモのようだ」ということで「竜胆」と呼ばれるようになったそうです。
リンドウの原産国は複数あり、日本もそのひとつです。いくつかある固有種のなかでも、めずらしいのがアサマリンドウ。自生しているのは、紀伊半島南部と中国地方、四国、九州の限られたエリアです。最初に発見されたのが三重県の朝熊山(あさまやま)だったことから、この名がつきました。
10〜11月に開花するアサマリンドウは、「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されている熊野古道にも咲きます。熊野古道は、熊野三山と呼ばれる熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)、熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)、熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)への参詣道。もっともメジャーなルート「中辺路」や、伊勢神宮と熊野三山を結ぶルート「伊勢路」の馬越峠(まごせとうげ)や横垣峠(よこがきとうげ)では、群生していることも。熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)の摂社神倉神社(かみくらじんじゃ)でも、参道の石段の脇にたくさん咲き、見頃にはさわやかな竜胆色の花々が目を楽しませてくれます。