ユネスコの世界遺産にも登録されている熊野。古くから山伏たちが修行する霊場として崇められてきました。海まで迫る険しい山々や迫力満点の巨大な滝など、熊野の圧倒的な大自然はまるで異界のような雰囲気で、いにしえの人々にも畏敬・畏怖を抱かせたのでしょう。古くからこの地には自然信仰が根付いていました。日本書紀ではイザナギノミコトを葬った場所と記され、「死後の世界に通じている」とも信じられてきました。
そんな熊野へのお参りがメジャーになったきっかけは、院政期の熊野御幸です。中世には庶民にも広まり、多くの参拝客で賑わいました。熊野詣は行程そのものが信仰で、「熊野へお参りし、帰ってくる」ということが「死と再生」を意味しています。よみがえりの聖地として信仰されているのは、熊野三山。熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)を中心に、熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)と熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)をあわせた呼び名で、この三社に通じる山道が、古木の生い茂る熊野古道です。三社はもともと、それぞれルーツの異なる自然神信仰でしたが、やがて日本神話の神々と結びつき、その後神仏習合を経て、熊野信仰へと変貌を遂げていきました。
世界遺産となり、再び人気上昇中の熊野三山詣。参拝のお供として注目を集めているのが、郷土料理の「めはりずし」です。1食分をひとつの巨大な俵おむすびにして、くずれないよう高菜の葉でくるんだもので、かつては山仕事や畑仕事の合間に食べるお弁当の定番でした。名前の由来は「目を見張るほどおいしいから」「おむすびに目張りするよう完全に包み込むから」などの説もありますが、「目を見張るほど大きな口を開けて食べるから」という説も。それほどに大きいのが特徴ですが、現在では食べやすいよう少し小ぶりに作られることも多くなっています。
地域や家庭によって味付けが異なるのも、めはりずしの魅力。むかしは麦飯が一般的でしたが、現在では白米を使うことが多く、酢飯にしている場合もあります。また包むときに残った高菜の茎を刻んで具にするなど、さまざまにアレンジされたものも登場しています。
もともとは家庭料理でしたが、現在ではメニューに取り入れているお店や専門店も多くなっています。熊野本宮大社前の「茶房 珍重庵(さぼう ちんちょうあん) 本宮店」や新宮の「総本家めはり屋新宮本店」など、参拝のついでに味わえるお店もいくつもあるので、食べ比べてみてはいかが!?