これだけは知っておきたい神社のこと・神社の情報・検索サイト 神社.com


特集 vol.304
神話の神社を歩く
〜天孫ニニギの結婚編
天孫ニニギは地上に降り立ち一目惚れしたのは、日本神話界きっての美女、コノハナサクヤヒメ。一筋縄ではいかない二柱の結婚&出産ストーリーをご紹介します。

天孫、海辺で絶世の美女に出会う


高千穂の峰に降り立った天孫ニニギ。宮殿を築く場所を探してたどりついたのが、海を隔てて朝国(今の朝鮮)を望み笠沙の岬が正面にあり、日が降り注ぐ吉相の土地でした。
その素晴らしいロケーションに宮殿を築いたあと、笠沙の岬を散歩でもしていたのでしょうか。ニニギは美しい乙女に出会います。それが、本名カムアツタヒメ、別名コノハナサクヤヒメです。


ニニギとコノハナサクヤヒメの出会いの地のひとつとされる、宮崎県延岡市の愛宕山。古代は半島で笠江岬と呼ばれていました。山頂の展望台には、二柱のモニュメントがあり夜景が見られるデートスポットになっています。

一目惚れしたニニギは速攻でプロポーズ。コノハナサクヤヒメの父であるオオヤマツミにも申し出たところ、オオヤマツミは天孫の孫と娘の結婚に大喜びします。たくさんの贈り物とともに、コノハナサクヤヒメの姉のイワナガヒメも一緒にニニギのもとに送り出しました。


人の命に限りがあるのはニニギの行いのせい!?


晴れて幸せな結婚、とはならないのが神話の興味深いところ。ニニギはなんと、姉のイワナガヒメが醜かったため帰してしまいます。ニニギからすれば結婚したかったのは妹なので、醜い姉がついてくるのは納得いかない気持ちもわかりますが、オオヤマツミファミリーにすれば泥を塗られた、と思うはず。
古事記では、オオヤマツミが怒り「石の神であるイワナガヒメも娶れば岩のように命が永らえたのに、花の神であるコノハナサクヤヒメのみを娶ってしまった。天孫の命は花のように栄えても、花のように短く散るだろう」と呪いをかけてしまいます。日本書紀でもイワナガヒメが同様の呪いをかけ、そのため、天孫の子孫である天皇の命も、人の命も限りあるものになってしまった、ということになっています。


オオヤマツミを祀る神社として知られる愛媛県今治市の大山祇神社(おおやまづみじんじゃ)。日本総鎮守と呼ばれ、全国に1万社の分社があります。

一方、ニニギとコノハナサクヤヒメは寝屋に入り、コノハナサクヤヒメは一晩で妊娠します。それを聞かされたニニギは「それは自分の子ではなく国津神の子だろう」と言い放ちます。それを聞いたコノハナサクヤヒメは「うちのファミリーに泥を塗ったあげくに、自分の子ではないとは何事か」と激怒したのではないでしょうか。
「お腹の子が天孫なら、産屋を焼いても無事に生まれるでしょう」と言って、出口のない産屋を建て、出産間際に内側から火を放つという恐ろしい行動に出ます。そうして火にも損なわれずにコノハナサクヤヒメは無事に三柱の御子を出産、というのがこのお話の結末となっています。


ロマンチックにはならなかった二柱の結婚


この一節、恋物語のように記されていることもありますが、コノハナサクヤヒメがニニギを好きだったとは思えません。古事記・日本書紀では男神も女神も相手に惚れる際の描写として美しい容姿に言及するという定石がありますが、コノハナサクヤヒメがニニギの容姿にふれるシーンは一切なし。ニニギにプロポーズされても「父に聞いてみます」と主体的な発言もなし。さらに、日本書紀の一書ではコノハナサクヤヒメは御子を生んだあとにもニニギを恨んで喋ろうとしなかったという話や、生んだ御子を見せたら自分の子ではないと“あざけって笑って”「こんなにわが子が生まれて嬉しい」と嫌味を言いコノハナサクヤヒメが怒るという話も記されています。コノハナサクヤヒメにとってニニギは、父の命に従って嫁いだら夫がヒトデナシ(だって天孫ですからね)だったというところでしょう。


コノハナサクヤヒメが祀られる浅間神社の総本宮、静岡県富士宮市の富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ)。火の中でも無事に出産したことから火難消除・安産の神さまとして崇敬を集めています。

【次のお話、「神話の神社を歩く〜海彦と山彦兄弟の物語編」はこちら】