京都の西に広がる「西山」。「東山」「北山」は観光地として知られていますが、「西山」は最近少しずつ注目を集めてきているエリアです。
空に向かって凛と立つ竹林、ひまわり畑、すてきなレストランやカフェに、歴史ある寺社仏閣・・・。人混みを避けながらのんびり京都の田舎の風情を楽しむにはぴったりです。
西山にある大原野は、「京都の隠れ里」ともいわれる里山。この地に鎮まる大原野神社(おおはらのじんじゃ)は、源氏物語の作者・紫式部が氏神さまとして信仰し、大原野は紫式部がこよなく愛した場所だと伝えられています。
紫式部が自ら選んだ歌集「紫式部集」にも、大原野を偲んだこのような歌が詠まれています。
ここにかく 日野の杉むら 埋(うづ)む雪
小塩(をしほ)の松に 今日(けふ)やまがへる
日野岳の杉林は深く雪に埋もれんばかりだ。
今日は、都でも小塩山の松に雪が降っていることであろうか。
この歌は、紫式部が父である藤原為時にともなわれ越前国にやってきたときに、都の景色を懐かしく思い出して詠んだもの。たくさんの山がある京都で大原野の山、小塩山を真っ先に思い出したことから、紫式部にとって大切な場所であることが見て取れます。
大原野神社は、長岡京遷都にともない、藤原氏の氏神さまである奈良の春日大社を分詞したのが始まり。嘉祥3年(850年)には、壮麗な春日造の本殿や奈良の猿沢池を模した鯉沢の池が造営され「京春日」「京の春日さん」と親しまれるようになりました。
藤原氏の一族では、女子が生まれると皇后や中宮になれるよう、この神社に祈りを捧げ、祈願通りの地位につくと行列を整えて参拝していたそう。
寛弘2年(1005年)には、藤原道長の娘中宮彰子(一条天皇の皇后)が参拝し、道長とともに紫式部もお供に加わりました。道長といえば、平安時代の貴族のなかでもナンバーワンの権力を誇った人物。その絢爛豪華な行列は目をみはるようなものだったと伝えられています。
春日神の神使は鹿。「京の春日さん」とされるように、社殿の前には狛犬ではなく狛鹿がお出迎えしてくれます。御朱印や御朱印帳、お守りなど授与品も愛らしい鹿モチーフがいっぱい。
なかでも人気なのが、神鹿みくじ。木彫りの神鹿が巻物をくわえた姿で、巻物がおみくじ。運勢を伝えてくれたあとの神鹿は、持ち帰って参拝の記念として、お守りとして大切に飾っておきましょう。
もうひとつの注目が、神鹿モチーフのオリジナルマスク。大原野神社では、毎日コロナウィルス終息の祈願がされていることもあり、このマスクがつくられました。
朱色の鹿は、境内に飾られている大絵馬の神鹿をかたどったもの。マスクを身につければ、神鹿にウィルスからのご加護もいただけそうですね。