新しい日本の夏の風習、「夏詣」をご存知ですか?神社では、けがれを祓う「大祓」という儀式が年に2回行われます。一年の終わりの大祓「年越の祓」と折り返し地点である夏の「夏越の祓」です。年越の祓が終わると人々はこぞって初詣をしますが、夏越の祓の後に参拝する人は多くありませんでした。そこで浅草神社(あさくさじんじゃ)が提唱しはじめたのが「夏詣」です。
夏詣のスタートは2014年。その背景には「人生の節目、一年の節目だけでなく、季節の節目や日々の節目などにも神社へ参拝する習慣をつけていただければ」との想いがあったそうです。
浅草神社1社からはじまった夏詣は、2021年で8年目を迎えます。参画社寺は着々と増え、2020年の夏詣終了時点ですでに200を超えました。北は北海道から南は宮崎まで、全国に広まりつつあります。
夏詣に参加している神社のなかには、オリジナルの参拝企画を用意しているところも。
たとえば7月1日〜7日に行われる浅草神社の夏詣には、思わず参拝したくなる工夫が凝らされています。特に注目は、雨や暑さを「防ぐ」のではなく、季節のものとして「楽しむ」ための「竹参道」「水参道」「風参道」です。
「竹参道」となるのは、鳥居をくぐり、社殿へと向かう参道です。両脇に設置した笹竹のおかげで、多少の雨なら濡れずにお参りできるようになっています。参道を横切るように蓄光石で天の川が作られているのもポイント。夜の境内を幻想的に彩ります。
暑さに対しては、五感で涼を感じる仕掛けが。「”目”で楽しむ水参道」と「”耳”で楽しむ風参道」です。境内の井戸へと続く参道の両脇は藍染手ぬぐいの幟を立てた「水参道」に変身し、神楽殿の向かいには風鈴のトンネル「風参道」が登場します。
参拝のきっかけ作りとしてスタートした夏詣ですが、他にも大きな目的が。「神社は日本の文化・伝統にふれられる場所。地域で受け継がれてきた風習が途絶えないよう守ったり、消えつつある風習を掘り起こして伝えたりする機会にしたいのです」と、土師さんは教えてくださいました。
そんな想いから生まれたもののひとつが、初回から続く「井戸洗い神事」と「流しそうめん」の企画です。井戸洗い神事は、江戸時代の風習をもとにはじめられたもの。江戸時代、生活を支える水源は井戸水でした。当時は七夕の日に井戸を掃除し、水を汲み替える習慣があったそうで、その古事にちなんで生まれた神事が「井戸洗い神事」です。近年あまり見られなくなった「竹を使った流しそうめん」もぜひ体験してもらおうと、夏詣のプログラムに取り入れました。感染症流行の影響もあり2020年は中止しましたが、安全に開催できる方法を模索しつつ、今後も続けていく予定だそうです。
さらに2021年は、夏詣オリジナル盆踊りの考案をスタート。未曾有の事態を一丸となって乗り越えようという熱意と祈りが込められています。
他にも浅草神社では毎年、日本文化にふれられるさまざまなイベントを企画。つまみ細工や藍染の体験イベントも開催され、貴重な伝統文化体験の場にもなっています。
このように日本文化にふれる場を設けるためには、地域との連携が欠かせません。浅草神社では参拝ついでに浅草散策も楽しんでもらおうと、近隣地域と連携して夏詣期間ならではの特典を用意する取り組みも行っています。
「夏詣は社寺の行事にとどまらず、地域の文化や風習を守り伝える機会としても、また神社の存在意義を感じてもらう機会としてもいかせる可能性を秘めています」と土師さんは語ります。
その志に賛同した神社のなかには、近隣地域で連携した企画を用意しているところも。県内の夏詣神社めぐりや、近隣の複数神社でひとつながりの限定御朱印を用意するなど工夫を凝らし、それぞれの地域で進化しつつあります。東京と神奈川を結ぶ京急電鉄では沿線の神社をめぐる「夏詣キャンペーン」も開催。着々と広まり、それぞれの地域で進化しつつある夏詣。夏の参拝の楽しみとして、目が離せない存在になりそうです。