最近ツイてない、運気を変えたい、出会いがほしい。日本人にとって神社はそんな時にすがりたくなるもの。この本の著書でイラストレーター&ライターの鈴木さちこさん(本の中にはパピコとして登場)も、女子力アップを求めて神社をはしごしたり、縁結びを願って出雲に一人旅をしたり。関東近県から九州まで14都府県33神社にわたる参拝旅を描いたコミックエッセイです。
本には出雲大社(いづもおおやしろ)や伊勢神宮(いせじんぐう)など、格式ある大きな神社から地方の小さな神社まで登場しますが、どの神さまもかわいらしいのが特徴です。数百〜数千年前の歴史ある縁起も、パピコにかかれば親近感のある話に早変わり。神々が集う会議やツンデレな女神ククリヒメカミ、ダジャレ好きなスサノオノミコトなど、“ほんわかわいい”イラストの力で、いにしえの神々がまるで親戚のような親近感をもって感じられます。
そしてパピコもまた、読者にとってバーチャル友達のよう。スリルもサスペンスもロマンスもなく、女友達とただぺちゃくちゃとおしゃべりしながら旅をしているような、ゆるい空気感が心地いいのです。しかも神社の話以外にも、鉄子こだわりのお得な周遊きっぷ、周辺グルメなどの情報も満載。気ままな鉄道旅気分が味わえます。
日本唯一のテラタビスト(寺旅研究家)である吉田さらささん。「(仏像がないから)神社はイマイチつまらない」といっていた彼女が、神社のおもしろさに目覚めてカミタビスト(神旅研究家)を名乗るようになったのは『古事記』がきっかけだそうです。そして奈良は『古事記』の重要な地。奈良といえば法隆寺、東大寺などお寺が有名ですが、もちろん神社も数多く存在します。しかも1400年以上前、なかには紀元前の創建と、かなり歴史の古い神社もあるとか。この本はそんな神々のロマンが残る奈良県内の神社を案内してくれます。
最もページを割いているのは、768年創建、世界遺産の春日大社(かすがたいしゃ)です。広大な敷地に摂社・末社含め61のお社があり、縁結び、金運、長寿などご利益もさまざま。吉田さんが「ご利益のテーマパーク」と呼ぶのも納得です。さらに奈良市内、橿原・飛鳥、葛城古道などへも足を延ばし、日本初のまんじゅうを作った神さまを祀る神社や、かき氷を奉納する神社、怨霊を鎮める神社、天の岩戸があったとされる神社など個性的でミステリアスな神社をめぐります。
個々の神社の案内も実に楽しいのですが。この本の肝は、よりディープに神社を味わうヒントが数多く載っていることにあります。神話や建物、神事の見どころ、作法などの堅苦しい話も、意味を知れば「なるほど!」の連続。神社についてもっと知りたい、もっと学びたいという意欲が湧いてくるから不思議です。まずは『古事記』を読んでみようか。きっとそんなふうに好奇心が刺激されますよ。
類まれなる審美眼を持った昭和のカリスマ、白洲正子さんの紀行エッセイです。近江(滋賀)、大和(大阪・奈良)、京都、越前(福井)などの「秘境と呼ぶほど人里離れた山奥ではなく、ほんのちょっと街道筋からそれた所」に残る、「ひっそりとした真空地帯」の寺社仏閣を訪ね歩いています。
白洲正子さんは旧薩摩藩出身の伯爵の娘で、学習院初等科を卒業後に渡米、白洲次郎氏と互いに一目惚れし19歳で結婚。能をはじめ日本の伝統芸能・芸術に造詣が深く、文筆家として成功を収めました。セレブでインテリ、庶民とはかけ離れた気取った人物かと想像しがちですが、彼女の文章には気取りもおごりもありません。感じるのは、脈々と受け継がれてきた信仰と美への深い尊敬です。
本の中で、彼女は時間を見つけては興味のある地域に足を伸ばし、寺社仏閣を見学してその地の歴史や文化、習俗に思いを馳せます。最初に訪れるのは、滋賀県甲賀市にある油日神社(あぶらひじんじゃ)。神社が所蔵する古い「福太夫の面」を出発点に、作者の謎、地域の祭りの意味、ギリシャ文化の影響にたどり着きます。およそ50年前に出版された本ですが、彼女の深い洞察と細やかな観察眼、そして情緒豊かな文章が今もみずみずしく、何度も読み返したくなります。
観光地にある神社もいいですが、地方にひっそりと息づく神社の良さ。そんな神社を通して日本の文化や美を味わう。次はそんな旅もいいですね。