前回は、さまざまな試練を乗り越え、ひと目ぼれしたスセリビメとも結ばれたオオクニヌシが、国を作り上げ地上である葦原中国(あしはらなかつくに)を納めていたところまでをお届けしました。今回は古事記をベースに、せっかく統治した国をなぜ明け渡すことになったのかをひも解く、国譲りの物語が始まります。
高天原(天上界)のアマテラスは「この地上世界は我が御子であるオシホミミが統治する国だ」と宣言します。オオクニヌシはスサノオの子孫ではあるものの、高天原の直系が支配すべきだと考えたのです。
オオクニヌシが一所懸命に作った国なのにご無体な、とも思いますが現代の常識では計り知れないのが神話のおもしろいところ。
しかし、アマテラスがオオクニヌシに求めた葦原中国の譲渡は、予想以上にてこずることになります。
オシホミミが統治すべく地上に降りる途中にある天浮橋(あまのうきばし)まで行ってみると、地上世界は「乱れていて騒がしい」と戻ってきてしまいます。このままではわが子が降臨できないと考えたアマテラスは、地上の荒ぶる神を服従させるため交渉役を派遣することにしました。
神さまたちが協議した結果、交渉役に選ばれたのはアメノホヒノカミ。アマテラスの次男でオシホミミの弟にあたる神さまです。アメノホヒノカミは、地上に行ったものの、オオクニヌシに寝返ってしまい3年たっても復命しませんでした。
いつまでたっても帰ってこないアメノホヒノカミにしびれを切らした高天原では、再び協議が開かれ、次はアメワカヒコが選ばれます。地上に降り立ったものの、実は自らが地上の主になろうという野心を抱いていたアメノワカヒコは、オオクニヌシの娘と結婚してしまいます。さらに、高天原から様子うかがいにやってきた雉のナキメを、天から授かった矢で射殺してしまうという暴挙にでるのです。
その矢はそのまま飛んで天上界へ。血のついた矢を見たタカミムスヒノカミが「アメワカヒコに逆心がなければ、この矢は当たらない」と投げ返したところ、アメワカヒコの胸に命中。神罰がくだって絶命し、その野望もついえることになりました。
アメノワカヒコの葬儀では、ワカヒコの親友が弔問で亡き友に間違えられ「何だってわたしをきたない死人に比べるのか」と言って大暴れ。葬式の家を切り伏せ、足で蹴飛とばすというシーンも描かれています。飛んでいった喪屋は、美濃国の喪山だとされています。
派遣された二柱ともに命令に背くとは、高天原の人選がよくなかったのか、それともオオクニヌシが敏腕だったのか。いずれにせよ、裏切りあり、殺神あり、親友の葬式中の家を蹴飛ばしそれが山になるという乱暴ありと、相も変わらぬ神々の人間ドラマには驚かされます。
ちなみに、オオクニヌシに懐柔された第一の使者アメノホヒノカミの子孫は代々出雲大社(いずもおおやしろ)の宮司をつとめ、今にいたっています。いまの大宮司の千家氏は第84代目。まさに生きる神話ですね。権宮司千家国麿さんは、高円宮家の典子さまと結婚されていますが、婚約会見で千家家の初代がアマテラスの次男アメノホヒノカミであることに触れ「2千年を超える時を経て、今日を迎えたことに深いご縁を感じている」とも発言されていました。
その出雲大社がなぜできたのか、そしてオオクニヌシが最後に向かった先はどこなのか。次回は、神話の地、出雲と諏訪を舞台に、現存する神社にも深く由来するお話をお届けします!