「紀伊山地の霊場と参詣道」は、和歌山県・奈良県・三重県にまたがる3つの霊場と参詣道を対象とする世界遺産です。対象地域の広さは1万1865.3ヘクタールにおよび、日本の文化遺産のなかでは最大。広大な対象エリア内には、多数の社寺がありますが、今回は吉野・大峰エリア内の吉野水分神社(よしのみくまりじんじゃ)をご紹介します。
吉野山は、奈良県の中央部、南北に約8km続く山々の総称です。日本一ともいわれる桜の名所であり、秋は紅葉に包まれる自然豊かな場所。修験道の総本山である金峯山寺をはじめ、吉水神社(よしみずじんじゃ)や金峯神社(きんぷじんじゃ)など世界遺産の社寺が点在しています。
吉野水分神社の名称にある「水分(みくまり)」とは、その文字が示す通り「水配り(みずくばり)」のこと。山谷に流れ出る水を、田畑にほどよく配分し、灌漑の便を図る神さまです。社伝によると、天候が荒れて田畑からの収穫が不足しそうなときには朝廷から馬などが奉納され、豊作が祈願されたとのこと。
「水配」が「みまくり」「みこもり」「こもり(子守)」と転記され、地元では「子守さん」と呼ばれ子授けの御利益も知られています。
創建年数は不明ですが、平安時代の延長5年(927年)にまとめられた延喜式神明帳に記載がある古社。水分の神さまは奈良県を中心にほかにも数社に祀られていますが、神明帳には、こちらの吉野水分神社が「大和四処水分の第一」とされています。「大和四処水分」とは、大和国の東西南北に祀られた四つの水分神社のこと。大和国水分四社( 都祁・宇陀・吉野・葛城)といわれており、そのなかでも「第一」の水分神社であるということになります。
吉野水分神社が鎮座するのは、吉野山のなかの上千本と呼ばれる地域。吉野山の奥深くにひっそりと鎮まっています。
生け垣や石垣が残る昔ながらの集落の道を上っていくと、出迎えてくれるのが朱色の鳥居と数段の石段の上にそびえる立派な楼門。現在の社殿は、豊臣秀頼が再建したもので、周囲をぐるりと囲む回廊と本殿・拝殿・弊殿、楼門からなります。美しい社殿群は、桃山時代の代表的建築物として、そのすべてが国の重要文化財に指定されています。
本殿は3殿を1棟続きにしており、中央の正殿に祀られているのが水分の神さまである主祭神の天之水分神(あめのみくまりのかみ)です。
左右には天萬栲幡千幡比v命、玉依姫命、天津彦火瓊瓊杵命、左殿には高皇産靈神、少名彦神、御子神を祀っています。本殿の屋根は、ヒノキの樹皮を用いる檜皮葺。虹梁・長押など彩色した彫刻も施され、シックでありながら華やかさもあわせもっています。
アクセスは、ロープウェイ吉野山駅から徒歩約1時間30分、車でも細い道を上っていかなければならず、交通の便がよいとはいえない場所にありますが、奥深い古里にある神社は、ここが特別な場所であることを感じさせてくるはず。吉野の世界遺産巡りでは、ぜひ訪れたい神社です。