この夏、日本に新たなユネスコ世界遺産が誕生しました。
世界遺産としては21番目の登録となる名称は、『「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群』。沖津宮・中津宮・辺津宮の三宮からなる宗像大社(むなかたたいしゃ)を中心に、8つの構成資産からなります。
宗像大社とは、宗像三女神(むなかたさんじょしん)の三柱を祀る三宮の総称。
全国の宗像神を祀る神社の総本宮でもあります。
三女神の一柱、田心姫神(たごりひめのかみ)は、玄界灘に浮かぶ絶海の孤島沖ノ島にある沖津宮に。湍津姫神(たぎつひめのかみ)は、沖ノ島から離れた大島にある中津宮に。市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)は、九州本土・宗像市にある辺津宮に祀られています。
宗像三女神は、道主貴(みちぬしのむち)とも呼ばれ、海上・船舶・交通などすべての「道」の守り神として人々の崇敬を集めてきました。
さて、世界遺産ともなれば誰もが「ぜひ訪れてみたい!」と思いますよね?
しかし、この世界遺産の中心となる沖ノ島は女人禁制。男性であっても、宗像大社の神主以外は原則入島することができません。島そのものに立ち入ることができない、世界遺産なのです。
沖ノ島は1600年以上も前から、島自体を御神体として国家祭祀がおこなわれていた神聖な場所。日本と朝鮮半島を最短ルートで結ぶ重要な海上拠点でもありました。
荒れ狂う海を渡るのが困難な時代。人々が波間に蒼然とあらわれる沖ノ島を見て神々しさを感じ、畏敬の念を持ったのはごく自然なことだったでしょう。そんな自然崇拝からスタートした沖ノ島の国家祭祀は、4〜9世紀までの約500年間、島内のあちらこちらにある巨岩を舞台にもっとも盛んにおこなわれ、国家・皇室の安泰のため祈りが捧げられてきました。そして祭祀は、さまざまな変遷を経て今日まで続いています。
沖ノ島が「海の正倉院」と呼ばれるのは、23か所の祭祀遺跡があることと、祭祀に使われたであろう土器や、神さまへ奉献した神宝、ペルシャなどからもたらされた出土品、約8万点すべてが国宝に指定されているからです。
江戸時代以前には島の存在が知られることはなく、地元漁師の間では、島で見聞きしたことを帰ってから人に話してはいけない「不言様(おいわずさま)」という決まりがあり、厳格に守られてきました。島内の土一掴み、草木の1本、石ころのひとつも持ち出してはいけない、上陸前は全裸で海に入る禊をおこなうなどの決まりもあり、それらが延々と守られたことによって、神宿る島・沖ノ島の自然や神秘性が保たれてきたのです。
今も島には神主が10日おきに常駐し、真冬でも毎日海に入り、禊をしたあと神事がおこなわれます。
また秋の「みあれ祭」では、沖津宮の田心姫神(たごりひめのかみ)と、中津宮の湍津姫神(たぎつひめのかみ)を海上神幸で辺津宮へお連れします。古代からの信仰の形を残す高宮祭場で祭典がおこなわれるなど、脈々と三女神信仰が受け継がれていることも世界文化遺産登録決定のポイントとなりました。
残念ながら沖ノ島には入ることができませんが、もっとも島に近づける場所があります。それが沖ノ島から49km、宗像市神湊から11km離れた位置に浮かぶ大島。
そこには、湍津姫神(たぎつひめのかみ)を祀る中津宮があり、島の北側岸壁に沖津宮遙拝所が設けられています。そこから、遙かかなたに浮かぶ沖ノ島・沖津宮に向かって参拝することができます。天気のよい日は、その姿が水平線の向こうにあらわれます。
そして九州本土の辺津宮は、宗像市の海岸から内陸に3km入った場所に鎮座します。
広大な敷地には数々の社殿が建ち並び、背後の宗像山へ登ると、辺津宮の起源でもある古代祭祀跡・高宮祭場があらわれます。祭場の北西側からは、大島や玄界灘を見渡すことができます。
また境内には、沖ノ島から出土した国宝を展示する「神宝館」が。辺津宮近くには郷土文化施設「海の道むなかた館」があるので、世界遺産の知識をより深めたい方は、このふたつの立ち寄りスポットがおすすめ。「海の道むなかた館」3Dシアターで、入島できない沖ノ島内をぜひ体感してみてください。
今回の世界文化遺産登録をめぐり、当初地元は、8つの構成資産一括登録を目指していました。しかし2017年5月に一度、うち4つの除外を勧告された経緯をたどっているだけに、7月の一括登録決定を受け、地元・宗像市は湧きに湧いています。
7月後半には一部クラウドファンディングで資金を集め制作されることになった、テレビドラマ(RKB毎日放送)『あなたがここにいるだけで〜むなかた三姉妹物語〜』がクランクイン。宗像市民もエキストラとして参加して撮影が敢行され、10月に北九州地区で放送が決定しています。
さらに9月には、市内のグローバルアリーナ野外特設会場にて、豪華アーティストら出演による「第6回宗像フェス」が開催されます。
6年前に「宗像に世界遺産を!」を合言葉にスタートした宗像フェス。今年は、まさに登録決定お祝いイヤーとなりました。
宗像大社は「世界遺産とは、単なる町おこし・観光資源ではなく、未来へ守り伝えるものだという主旨から、神社としても地域の人々とともに世界文化遺産登録を目指しました。登録されることで宗像市や市民、国などの協力を得ることができ、海の環境を含め神社を多くの人々の手で、より強固に守り伝えていくことができると思います。
訪ねてくださる方に、日本人の信仰の原点である神社信仰を肌で感じてもらえればうれしいです」と語ってくださいました。