毎年1月10日におこなわれる、兵庫県西宮市西宮神社(にしのみやじんじゃ)の「福男選び」。早速2017年の福男3名のコメントや神事の様子がニュースや新聞で報道されていましたね。
今年の一番福・鈴木隆司さん(21歳)は川崎市在住。このように、住んでいる地域や年齢、性別にかかわらず誰でも参加することができるのが「福男選び」です。
そもそも「福男選び」とは、江戸時代に自然発生的にはじまった西宮神社独自の行事。商売繁盛を祈願する十日えびすにあわせておこなわれています。
朝6時の開門と同時に、一番乗りの参拝を目指して境内を全速力で駆け抜ける迫力のあるシーンは、ニュース番組でもおなじみ。
いち早く到着した3人目までが、福男となります。福男には、認定証・ご神像・副賞そして特別の半被が授与されるだけでなく、1年間は西宮神社の行事に奉仕するという大切な役割もあります。一年の福をその身に集め、周囲に福を授けることになります。
誰でも参加できる「福男選び」ですが、実際に福男を目指すにはいくつもの関門があります。
現在の「福男選び」では、一番前のAブロックに108名、次のBブロックに150名の定員が決められています。
A・Bブロックに入るためのくじ引きは、先着1500名。
スタート地点の赤門からゴールまでは230mしかないため、福男になるにはAブロックの前列にいなければなりません。当たりくじはAが赤、Bが青。くじに書かれた番号によりAブロックで並ぶ場所を選ぶ権利を得ることができるので、赤の早い番号を引かなければ福男になれる可能性はまずありません。
ちなみに、福男は目指さないけれど「走り参り」したい、という人に向けたCブロックもあります。こちらは開門の前に列に並べばOK。先着5000名には「開門神事参拝之証」の根付けストラップも授与されます。
くじ引きは、本気で福男を目指す人だけが挑戦するものとなっています。
くじ引きに参加するための受付は1月9日午後10時から。
その様子から見てみようと、9時30分ごろに西宮神社へ向かいました。
受付場所は、西宮神社ではなくお隣の西宮成田山円満寺駐車場。現地に着いてみると、暗い駐車場の中に人・人・人!
すでに1000人近い人が並んでいるようです。一番先頭に並んでいるグループに声をかけてみると、午後6時に来たそう。「毎年午後8時ごろに並んで、くじ引きで外れているので今年は早く来てみた」とのことでした。今年は幸い極寒ではなかったものの、冬の屋外に6時間も並ぶとは大変な熱意です。
くじ引きは当選者が定員に達した時点で終了となるので、遅い時間よりも有利であることは確か。しかも、今年の一番福の鈴木さんは行列の5番目、二番福の渡部涼さんは20番目、3番福の小野陽之さんは14番目だったので、早く並んだ人に福が訪れたことになります。
いよいよ受付が始まると、きちんと走れるスポーツシューズを履いているかのチェックがあり、問題がなければ参加承諾書にサインをします。その後は行列の順番のまま、西宮神社南門へ移動し、くじ引きが始まる深夜0時までずっと待機しなければなりません。
列を抜けられるのは、トイレなど一時的な理由のみ。防寒対策はもちろん、温かい飲み物や食べ物、スマホ用の充電器などを持参した方がよさそうです。
くじ引きが始まるのは、深夜0時過ぎ。
「まもなくくじ引き始まります!5・4・3…」というカウントダウンとともにスタートしました。コメントをいただいた最初のグループの方々は、残念ながら皆さんハズレ。「カラオケで時間をつぶしてから、Cブロックの列に並びます」とおっしゃっていました。
ハズレの人が解散していく一方で、「当たり赤!」「当たり青!」などの声が響き、次々と当選者が確定。別の場所へ誘導されていきます。
くじ引き終了後は、Bブロックはいったん解散となり、Aブロックの説明会と、スタート位置の場所決めが始まります。
説明では、転んだときの対処法、入れ替わりなどの不正がないよう隣の位置の人を覚えておくことなどが話されます。正直「当たりくじを引いても入れ替わる人がいるのでは?」と余計な心配をしていたので、気持ちよく走れる環境であることを知り安心しました。
終了するのは3時ごろで、Aブロックの人はようやく一時解散。
といっても集合は4時半なので、少ししか時間がありません。
ボランティアをされている神輿奉賛講社の方が「福男選び」は“本当に過酷”とおっしゃっていましたが、実際に見てみると納得です。
4時半になると参加者は赤門門前に再集合。訓示やウォーミングアップ、御祓いがあり6時に開門というスケジュールになります。
一方、報道関係者は5時過ぎに境内入場開始。4時半過ぎに赤門に戻ってみると、参加者のみなさんはストレッチをしたり軽く走ったり、もくもくとウォーミングアップ中。「いよいよ・・・」という静かな熱気が伝わってきます。
報道受付後は、編集部取材チームも境内へ。
赤門の中で開門シーンを狙ったチームによると、赤門の開門練習もおこなわれていたそうです。門はゆっくり開くものと思っていましたが、中で門を押さえていた人が離れると同時に「バーン!」と一瞬で開くそう。「門の担当者も相当な運動神経が必要なはず」だそうです。
ライターは、本殿前で待機。まわりの報道陣から「あと7分」「あと2分」とカウントする声が聞こえてきて、緊張が高まります。6時きっかりに「ドーン!」と太鼓が鳴らされると、わずかな間のあとに参加者が走り込んできて、福男が決定。
そのあともBやCブロックの参加者が到着し、カメラに向かって「うぉー!」と盛り上がります。「ふっくおとこ!ふっくおとこ!」というコールとともに福男が現れると、さらに大歓声。
「一度参加すると癖になる」というのも納得です。
本殿前で参加者に話を聞いていると、Aブロックの2列目にいたという人に会いました。「前で10人くらいが一斉に転倒して、ダメだった」と悔しそうに言いながらも、高揚し目が輝いています。
たとえ福男になれなくても、参加するだけで福をもらえるのが福男選び。そして、くじに当たり、転倒にも巻き込まれず福男になれた3人は、まさにえべっさんに選ばれた人なのでしょう。
福男参加者は過酷な一夜を過ごすからこそ達成感が、今回取材して気づいたのが、夜通し「福男選び」を支えるボランティアの人たちの存在です。
一切を仕切るのは、開門神事講社。そして町内会や神輿奉賛会などの協力があり初めて成り立っているのです。
開門神事講社代表の平尾亮さんは、過去2回二番福になった元福男。現場を精力的に仕切る大活躍で、この人の情熱がなければスムーズな進行はできないのだと思わせるものがありました。
大勢が同時に全力疾走する「福男選び」は、いつ大事故がいつ起こってもおかしくないそう。「年の始めに無事にえべっさんにお会いして、みなさんに“えびす顏”で帰ってほしい」という思いが原動力になっているとおっしゃっていました。