車や電車がない時代の旅は、大変な負担だったことは想像に難くありません。
旅人たちは、無事に目的にたどりつけるように、何事もなく帰って来られるように、神社で道中の安全を祈願していました。
越前国一宮の氣比神宮(けひじんぐう)は、北陸道総鎮守。畿内から北陸道の国々への交通の要所に鎮まり、北陸道を行き交う人々を加護してきた神社です。
主祭神は2千年以上前に降臨したとされる伊奢沙別命(いざさわけのみこと)、別称、笥飯大神(けひのおおかみ)、御食津大神(みけつおおかみ)。
海上・陸路の交通をはじめ、食を司ることから生活全般加護の御神徳が知られています。
伊奢沙別命以外にも、仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)、神功皇后(じんぐうこうごう)、武内宿禰命(たけのうちのすくねのみこと)など6柱の神さまが御祭神として祀られ、安産から延命長寿まで霊験あらたか。地元では「けいさん」と親しまれ崇敬を集めています。
氣比神宮は、朝廷と深いつながりがあり、能登国の沿岸部一帯を社領としたほどの格式ある神社です。
越前国主朝倉氏のために織田信長と戦ったことから、残念ながら社殿が焼失し社領も没収されてしまいましたが、江戸時代に復興し明治28年(1895年)には官幣大社に昇格しました。
その格式を感じられるのが、正保2年(1645)建立の大鳥居。
広島の厳島神社(いつくしまじんじゃ)、奈良の春日大社(かすがたいしゃ)と並び、日本三大木造鳥居に数えられ、国の重要文化財にも指定されています。
車の交通安全祈願の際は東参道車参入口から車御祓所へ向かうため、見落とさないようご注意を。
石川県で交通安全祈願におすすめなのは、小松空港のそば、日本海沿いに鎮座する安宅住吉神社(あたかすみよしじんじゃ)です。
北陸道を往来する人々を守護してきた神さまなので、交通安全祈願にぴったり。
1万2000坪の境内地があり、祈願後には境内を散策するお楽しみもあります。見どころは、林野庁のサイトにも掲載される全国の「白砂青松百選」に選定された松林と、県指定の史跡「安宅ノ関跡」。
「安宅ノ関」といえば歌舞伎『勧進帳』の舞台となった場所。
兄である源頼朝に謀反を疑われ、東北地方へと逃げたといわれる義経。その逃避行の一場面を描いたのが『勧進帳』です。
修行僧に化けた弁慶と荷物持ちに化けた義経一行が、安宅の関を弁慶の機転で切り抜けるというのがお話の筋。身分がばれれば一巻の終わりという一行と関守富樫による緊張感あふれるやりとりが一幕に凝縮された、言わずと知れた名作ですね。
この『勧進帳』にちなんで、安宅住吉神社は難関突破の神さまとしても崇敬を集めています。
「縁ありて社頭に詣づる人、誠を込めて神前に祈りを捧げば、その祈りは必ずや成就されん」と言われているので、受験や就職活動など勝負の一年を迎える人も訪れたい神社です。
「はくさんさま」こと白山神社(はくさんじんじゃ)は、新潟総鎮守。
新潟を代表する神社の一社に数えられています。
現在は市の中心部に鎮座している白山神社ですが、江戸時代までは新潟湊の先端に位置していました。
新潟湊は、漁業だけでなく川を行き来して人や荷物を運ぶ舟運が栄えた場所。
明暦年間(1655〜1658年)頃には、日本海側から下関を経て大阪へ至る西回りの航路が整備され、日本海側屈指の港町として発展しました。
海上安全の神さまとして信仰を集めていた白山神社は、移動手段が船から車になった現在でも交通安全の御神徳を求めて県内外からたくさんの人が訪れています。
まもなく、はくさんさまの桜が咲く季節。4月12日から18日は、春のはくさんまつりが開催され、華やかな雰囲気も楽しめます。