「福は内、鬼は内、悪魔は外」の掛け声で、豆をまくのはなんと鬼。
一風変わった節分祭がおこなわれているのは、埼玉県嵐山町の鬼鎮神社(きぢんじんじゃ)です。
御祭神は衝立船戸神(つきたつくなどのかみ)・八衢比古命(やちまたひこのみこと)・八衢比売命(やちまたひめのみこと)の三柱ですが、「鬼が鎮まる」というその名のとおり御祭神と同一視された鬼を祀っている全国的にもめずらしい神社です。
力強い鬼の神さまであることから、除災招福(じょさいしょうふく)の御神徳が知られています。鉄棒を持って邪悪なものを鎮めるという言い伝えから、境内には奉納されたたくさんの鉄棒を見ることも。また、金棒から「願えば“かな”う」とされ、合格祈願などの願掛けの神さまとしても崇敬を集めてきました。
鬼鎮神社の節分祭では、赤鬼、青鬼と年男が、福豆、みかん、団子などを投げるのがならわし。ふだんは静かな境内が、たくさんの露天商と人でいっぱいになり賑わうのは、鬼神さまの力強い御神徳があるからかもしれません。
鬼鎮神社のように名前に「鬼」が付く神社では、節分祭はどのようにおこなわれているのでしょうか?
東京・新宿区、歌舞伎町の真ん中に鎮座する稲荷鬼王神社(いなりきおうじんじゃ)は、全国唯一の鬼の王様の名前を持つ神社。天保2年(1831年)に大久保村の氏神さまだった稲荷神と、熊野から勧請された鬼王権現が合祀され、現在の名前になりました。豆腐を絶って「撫で守り」で病を治すという信仰が江戸時代から有名です。
こちらの節分追儺式の豆まきの掛け声は、鬼鎮神社と同様に「福は内、鬼は内」。福と春を呼び込むといわれています。
また、青森県弘前市鬼沢の、その名も鬼神社(きじんじゃ)も鬼を祀る社。
こちらの鬼は、農夫と相撲を取ったり、ひと晩で堰を作り人々を助けたりする、優しい鬼として慕われているそうです。鬼神社では、節分祭がない代わりに江戸時代から続く伝統行事「裸参り」が旧正月におこなわれています。男衆がふんどし姿で冷水に漬かる奇祭で、弘前市の無形民俗文化財に指定されています。
一方、「鬼」が名前に入っていなくても「鬼は内、福は内」と掛け声をかける節分祭をおこなっているのが、岡山県岡山市北区の宗忠神社(むねただじんじゃ)。
御祭神は、江戸時代の宗教家・黒住宗忠。その妻が、節分の豆まきで間違えて「鬼は内、福は内」ととなえてしまったそう。
とっさにあやまった妻に対し、「どこへ行っても『鬼は外』と追いやられて、鬼はたまったもんじゃないだろう」といい、そこで詠んだのがこの歌。
「鬼追わず福を求めず我はただ
追われし鬼を福に導く」
人だけでなく、鬼にも優しい御祭神にちなんで、「鬼は内」という掛け声の節分が始まったそうです。