きちんと古事記を読みたくなったときに迷うのが、たくさんある本の中からどれを読めばいいのかということ。
現在出版されている古事記は、訓読した原文を漢字仮名交じり文に書きなおした“書き下し文” 版と、原文の“現代語訳” 版、現代語訳からさらにわかりやすく文章を追加した“アレンジ” 版の3種類があります。
はじめての古事記で、古文に親しみが無い人は“現代語訳”か“アレンジ”が王道の選択肢になります。
なかでも読みやすくておすすめなのが福永武彦訳の『現代語訳 古事記』。
福永武彦さんは、昭和に活躍した小説家、詩人で、同じく小説家、詩人の池澤夏樹さんのお父さんでもあります。
古事記の現代語訳は、たくさんの注釈がついていることが多いのですが、本書には注釈がほとんどありません。わずかに文中の歌謡についての推察的略注が巻末にまとめられているのみ。
訳文のみで、いかに読みやすくわかりやすくするかを文筆家の技量を尽くして実践したのが本書なのでしょう。
文章の途中で注釈を読み返さなくても理解できるので、すらすらと読み通すことができるはず。
福永版でストーリーを抑えたら、そのほかの著者や訳者の版も読んでみて、解釈の違いを比べてみるのも楽しいです。
正直言って感動しました。古事記をおもしろいと思ったことはあっても、感動したのは初めてです。
古事記の漫画化作品はたくさんありますが、一体何が違うのでしょうか?
これまでの漫画化作品は、ほとんどが「知る」ための学習漫画かエンターテインメント性を追求したアレンジ作品。
『ぼおるぺん古事記』は、作中のテキストはすべて、原文(書き下し文)のまま。
わかりやすくかみ砕くことはせず、原文と絵、わずかな注釈のみで古事記を表現した実験的な作品です。
古文になれている人以外は、すらすら読み進めるのは難しいでしょう。
それでも、絵と漢字から意味を予想しながらじっくりと読み進めると、いつの間にか物語の中にどっぷりと入りこんでしまいます。
なにより原文や現代語訳では、短文で表現されているカ所に、いくつものコマが割かれていることで、古事記の世界観が伝わってくるのが魅力です。
例えば、大気都比売神(おほげつひめのかみ)が速須佐之男命(はやすさのをのみこと)に殺されて、死体から稲や粟、小麦が生まれ、神産巣日御祖命(かみむすひのみおやのみこと)が取りあげて種とするシーン。原文では短く淡々と描かれた一節が、本書では2ページ半かけて描かれています。サイレントな絵だけのコマで、ゆっくりと死から豊穣が生まれていく様子は美しく胸を打つものがありました。
なみなみならぬ意欲を感じる『ぼおるぺん古事記』の作者は、こうの史代さん。
文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞新生賞などの受賞歴があり、『ぼおるぺん古事記』は平成25年度「古事記出版大賞」の稗田阿礼賞を受賞している、文学系マンガ家の旗手ともいえる人物です。
『ぼおるぺん古事記』は、ただいま三巻まで発売中。
古事記1冊目としては、少々難しいかもしれませんが、現代語訳やアレンジ作品を読んだ人、古事記を原文で読んでいる通な人にもぜひ読んでもらいたいシリーズです。
神社を巡っていると、どんな御祭神が祀られているのか興味を持つことがあります。
境内の看板やパンフレットで確認しようと思っても、昔の文体で書かれていて読みにくかったり、御祭神については説明がなかったり・・・。
そんなときに活躍してくれるのが『古事記ゆる神様100図鑑』です。
古事記に登場する100柱と、それ以外の14柱の神様を、あいういえお順で掲載。
それぞれの神様のページには、その神様のイラストと紹介文と家族構成、祀られている主な神社、ご利益が記されています。
本書いわく「超入門編」の内容ではありますが、ダイジェストな情報が手軽にわかり、バッグにも入れやすいサイズなので携帯して神社巡りをするのに活躍しそうです。
作者は、売れっ子アーティスト・イラストレーターの松尾たいこさん。
250冊以上の本の表紙イラストを手掛け、出雲や伊勢をテーマにしたエッセイ本などを書いています。
仕事で取材をするうちに古事記が好きになったという松尾さん。
松尾さんが行ってよかった神社を紹介するページもあり、読み物としても楽しむことができます。