古事記・日本書紀に登場する神話と、神話ゆかりの神社を紹介する「神話の神社を歩く」。第1回目では、イザナギの禊ぎにより、アマテラスオオミカミ、ツクヨミノミコト、スサノヲノミコトの三柱の神さまが誕生したところまでをお届けしました。
今回は、その後の兄弟神たちのお話。
イザナギに海原(日本書紀では異伝あり)の統治をまかされたスサノヲでしたが、木々が枯れるほど泣きわめくばかりで働こうとしません。見かねたイザナギが「どうしたことか」と訪ねると「母が恋しい。母がいる根の国へ行きたい」というため、呆れたイザナギはスサノヲに好きにさせることにしました。
姉のアマテラスに暇乞いをするために高天原へ向かうスサノヲでしたが、アマテラスは高天原を奪いにきたのだと思い、男の格好で武装してスサノヲノミコトを迎えます。スサノヲは、「領地を奪いにきたわけではありません。その証拠に誓約(うけい)をおこないましょう」と提案します。
誓約とは、真意を確かめるための占いのこと。「スサノヲの持ち物から生まれたのが女の子ならば悪意はない」という誓約をしたところ、三柱の女神さまが生まれスサノヲの潔白が証明されました。
記紀では、誓約で生まれた三女神が筑前の胸形、のちの宗像に祀られていると記されています。
これは、福岡県の宗像大社(むなかたたいしゃ)のこと。
三女神の田心姫神(たごりひめのかみ)は沖津宮に、湍津姫神(たぎつひめのかみ)は中津宮に、市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)は辺津宮に鎮まっています。
神話にはっきりと記されている場所が、今も変わらずにあるということだけでも胸に迫るものがありますが、田心姫神が鎮座する沖津宮はより神秘的。
沖津宮の鎮座する沖ノ島は、九州と朝鮮半島を結ぶ玄界灘のほぼ中央に位置する絶海の孤島。女性の禁足などの古代の禁忌が今も守られている完全な神域です。
島自体が御神体であり、住民のいない島を神職が10日交代で、たった一人で守り続けているそう。さらに、過去におこなわれた調査により8万点もの古代祭祀宝が発掘され、すべてが国宝の指定を受け、海の正倉院とも呼ばれるようになったのだとか。
まさに神話が今に生きる場所。
「宗像・沖ノ島と関連遺産群」は、世界遺産暫定リストにも掲載され、世界的にも価値があると認められるよう活動がおこなわれています。
疑いを晴らしたスサノヲは、高天原でやりたい放題。
畑を荒らしたり神殿に糞をしたりと乱暴狼藉を働いたあげく、馬の尻から皮をはいで神衣を織る御殿の天井を破って投げ込みます。古事記ではこれが元で女官が陰部をケガして死んでしまいます。
往年の不良ドラマ『積木くずし』のような荒れぶりですね。
これまで弟をかばってきたアマテラスも、この一件で怒り心頭に達し天岩戸に隠れてしまいました。
この荒ぶる神スサノヲによって太陽神アマテラスが隠れる逸話は、台風によって太陽が隠れる災厄を象徴している、日食を示しているなどの解釈がなされています。
アマテラスが隠れ世界が闇に包まれてしまったため、神々が考え出したのが岩戸の前で祭りをおこなうこと。楽しげな様子で誘い出そうという手です。
なかでもアメノウズメの胸がはだけるほどの踊りは、見ていた神さまが笑い転げるほどのおもしろさ。笑い声を不思議に思ったアマテラスが顔をのぞかせたところを、力持ちの神さまが天岩戸を開いて外に連れ出します。
笑いの力で世界に光が戻ってきたという、なんとも明るいエピソードです。
この天岩戸の場所は諸説ありますが、そのうちの一つが宮崎県高千穂町に鎮座する天岩戸神社(あまのいわとじんじゃ)。
社殿の後ろにそびえる断崖の中腹にある洞窟・天岩戸は、天照皇大神(あまてらすすめおおみかみ)が籠もった場所として伝わり、御神体としてお祀りされています。
また、神社より500m川上の河原は、神々がアマテラスを天岩戸から誘い出すための会議がおこなわれた天安河原として伝わる場所。河原の一角にある間口40m、奥行30mの大洞窟は、願いがかなうと伝わり、全国から崇敬を集めています。